陸上競技に興味がある方、学校で部活を始めたばかりの中高生、あるいは保護者の方の中には、「短距離と長距離って何が違うの?」と疑問に思ったことがある方も多いのではないでしょうか。
SNSやブログなどでもたくさんの「走るのが速くなるために!」という記事や投稿を見かけますが、100mや200mのスピード勝負のレースも、5000mやマラソンのような持久走も、どちらも「走る競技」であることには違いありません。しかし、短距離と長距離とでは必要な能力や練習方法がまったく異なります。同じ“速くなる”でも、その意味するところは競技特性によって大きく変わってくるので注意してください。
この記事では「長距離と短距離の違い」を、経験豊富な元実業団ランナーの視点から、わかりやすく徹底解説します。
1. 【基本】長距離と短距離の種目の分類
まずは基本から。陸上競技では距離によって種目が分類されます。
種別 | 距離 | 主な種目 |
---|---|---|
短距離 | ~400m | 100m・200m・400m |
中距離 | 800m~1500m | 800m・1500m・マイル |
長距離 | 3000m以上 | 3000m・5000m・10000m・ハーフ・マラソン |
中距離は短距離と長距離の中間的な特徴を持っていますが、ここでは主に「短距離」と「長距離」に焦点を当てて解説します。
2. 【最大の違い】使う筋肉の種類
短距離と長距離では、使う筋肉のタイプが大きく異なります。
- 短距離:速筋(白筋)
一気に爆発的な力を出すのに適した筋肉で、短時間で大きなエネルギーを生み出します。 - 長距離:遅筋(赤筋)
長時間にわたって動き続けるのに適した筋肉。疲れにくく、酸素を使ってエネルギーを生産します。
短距離選手は太ももやふくらはぎが太く、筋肉のキレが目立つのに対して、長距離選手は細身で持久力に優れた体つきが多いのはこの違いによるものです。
3. エネルギーの使い方(無酸素 vs 有酸素)
- 短距離走:無酸素運動がメイン
スタートダッシュからゴールまで、酸素を使わずにATP(筋肉内のエネルギー)を爆発的に使います。疲労物質である乳酸が溜まりやすく、持続時間が非常に短いです。 - 長距離走:有酸素運動がメイン
酸素を使って脂肪や糖質を燃やしながらエネルギーを生み出すため、持久力が高く、長時間走り続けられます。
4. ランナーの体型や体質の違い
特徴項目 | 短距離型選手 | 長距離型選手 |
---|---|---|
体型 | 筋肉質、がっしり | 細身、しなやか |
体脂肪率 | やや高め(筋肉の影響) | 非常に低い |
筋肉タイプ | 速筋が多い(爆発力重視) | 遅筋が多い(持久力重視) |
骨格傾向 | 骨太、肩幅広い | 華奢、骨格が細め |
もちろん、個人差はありますが、体質もパフォーマンスに大きく影響します。
5. 練習方法と走り方・フォームの違い
短距離の練習の特徴
- スタート練習(クラウチングスタート)
前傾姿勢からの爆発的なスタートダッシュが勝負の鍵。スタブロの使い方や反応速度を磨きます。 - 高強度のダッシュ(30m〜200m)
最大スピードに乗るための「加速区間」と「トップスピード区間」を意識した練習が中心です。 - 筋力・パワー系トレーニング
スプリントドリル、ジャンプ系、ウエイトトレーニング(スクワット、クリーン等)で爆発力と瞬発力を鍛えます。
長距離の練習の特徴
- LSD(ロングスローディスタンス)
有酸素能力を高めるための低強度・長時間のランニング。 - ペース走・ビルドアップ走
実戦に近い一定ペースでの走りや、徐々にスピードを上げる走りを習得します。 - インターバル・レペティション
スピード持久力を養うために、短い距離を繰り返すトレーニングも重視されます。
フォーム・走り方の違い
短距離走のフォーム
- 前傾姿勢を保ったまま加速
- 膝を高く上げ、地面を強く蹴る
- 腕振りはコンパクトかつ速く
- ストライド(歩幅)を大きく、地面反力を利用
- 踏み切りと着地はつま先側で、反発力を最大化
長距離走のフォーム
- 上半身はリラックスし、やや前傾
- 無駄のないコンパクトな腕振り
- 着地は**足裏全体またはミッドフット(中足部)**を使う
- リズム重視で呼吸とペースをコントロール
- 長時間維持できる効率的なフォームが理想
まとめ:練習もフォームも、目的に応じて全く違う
短距離と長距離は、走る目的がまるで違うため、練習の内容も走り方・フォームもまったく異なります。
短距離では「瞬発力とスピードを引き出す効率的な力の出し方」が求められ、長距離では「省エネルギーで粘り強く走る持久型の走り」が重要です。
6. 試合中の戦略と走り方の違い
短距離
- スタートが勝負の分かれ目
- ミスが致命的
- 一瞬の集中力と爆発力がカギ
- 呼吸をほとんど意識しない
長距離
- レース展開が重要
- ペース配分、風の影響、他選手の動きに合わせる必要あり
- 終盤の勝負強さや粘りが問われる
- 呼吸やフォームの維持も大切
7. 向き・不向きの見分け方
「自分は短距離タイプ?長距離タイプ?」と悩んでいる人も多いと思います。以下は一つの参考です。
- 子供のころから短距離走が得意だった
- スポーツテストで反復横跳びや垂直跳びが得意
→ 短距離向き - 長距離走やマラソンで最後までバテない
- 身体がスリムで粘り強さに自信がある
→ 長距離向き
しかし、これはあくまで目安です。中高生の段階ではいろいろな種目を経験してから決めるのがベストです。
8. 両方の経験が成長につながる理由
短距離で身につく瞬発力・ダイナミックなフォームは、長距離選手にも有効。逆に、長距離で養われる心肺機能やリズム感は、短距離選手にも役立ちます。
中学時代に両方経験することで、自分の可能性を広げたり、ケガを防いだりすることもできます。
9. まとめ:どちらも魅力的、だからこそ知ろう!
短距離と長距離は「走る」という点では共通していますが、まったく別の競技といっても過言ではありません。それぞれに求められる能力、練習法、戦略が違うからこそ、自分に合った種目を見つける楽しさがあります。
もしあなたが指導者や保護者なら、子どもが興味を持った競技の特性を理解し、無理のない導きをしてあげてください。
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